哺乳類

ハワイモンクアザラシ(ハワイアンモンクシール)

ハワイモンクアザラシ(ハワイアンモンクシール)
熱帯のハワイにアザラシ? ワイキキのカイマナ・ビーチで夕方泳いでいたら、浜辺にアザラシが突然現れた。ハワイに生息する野生のアザラシ、ハワイモンクアザラシ(タイヘイヨウモンクアザラシ)だ。 アザラシといえば、海に流氷が浮いているような寒い地域に棲んでいるというイメージが一般的にあるので、ハワイにアザラシがいるなんて意外に思う人もいるかもしれない。ハワイモンクアザラシは、熱帯のハワイに生息する珍しいアザラシで、世界でハワイ諸島にしか生息していないハワイ固有種である。 ハワイではよく知られている動物で、ビーチや岩場にあがってきて昼寝をしている姿をたまに見ることができる。オアフ島では、自然保護区になっているカエナ・ポイントなどで見られる確立が高い。サーファーが波待ちをしていたら、すぐそばに体長2メートルもあるアザラシが顔を出して驚いたなんて言う話もサーファーの友人から聞いたことがある。 オアフ島最西端のカエナ・ポイントは自然保護区になっていて、ハワイモンクアザラシの姿も見られる 3種のモンクアザラシ 海に棲む哺乳類のなかで四肢がヒレのようになっているアザラシ、アシカ、セイウチなどを、総称して鰭脚類(ひれあしるい/ききゃくるい)という。ハワイモンクアザラシが属するモンクアザラシ属(Monachus)の仲間は、現存する鰭脚類のなかではもっとも古くて原始的なグループだとされている。数百万年前からほとんど姿が変わっていないという。 モンクアザラシ属は、チチュウカイモンクアザラシ(Monachus monachus)、カリブモンクアザラシ(Monachus tropicalis)、そしてハワイモンクアザラシ(Monachus schauinslandi)の3種が知られている。 大西洋や地中海に生息するチチュウカイモンクアザラシは、生息数が500頭以下と極めて少なく、深刻な絶滅の危機に瀕している。カリブモンクアザラシは、その名の通りカリブ地方に生息していたが、1952年を最後に目撃されていない。現在は絶滅したと考えられている。 ハワイモンクアザラシは、チチュウカイモンクアザラシに比べると生息数は多いが、それでも2016年時点での生息数はわずか1,200頭程度であり、こちらも絶滅の危機に瀕している。 名前について 英語ではハワイアン・モンク・シール(Hawaiian monk seal)という。モンク(monk)は、修道士や僧侶のことである。モンクアザラシの首のひだが、修道士が着る修道服のフードに似ていることに由来するそうだ。また、モンクには、ギリシャ語で「一人で暮らす人」という意味もあるといい、モンクアザラシが群れることなく単独でいることが多いことも、名前の由来になっているらしい。シール(seal)は、アザラシのことである。 ハワイ語ではイーリオホロイカウアウア(ʻīlioholoikauaua)という。直訳すると「荒海を駆ける犬」という意味である。 不思議なことに、古代ハワイのチャントや伝承にアザラシは出てこない。だからといって、古代ハワイ人が、アザラシのように大きな動物の存在に気付かなかったとは考えにくい。つまり、ポリネシア人がハワイにやってきて定住してから長い間、アザラシはハワイに棲んでいなかったと思われる。ウミガメを指すホヌ(honu)や、マグロを指すアヒ(ʻahi)などと比べても、イーリオホロイカウアウアというハワイ語名は明らかにやや説明的で、ハワイ人が日常生活のなかでよく使っていた言葉ではないことがわかる。 特徴と生態 体長は2メートル以上、体重は200キロ以上になる。体は銀色がかった灰色。生まれたばかりの子供は全身黒色。野生の状態での寿命は約30年と言われている。 ハワイモンクアザラシの親子(2017年7月、カイマナ・ビーチにて撮影) 潜水能力が高く、海中を自由に素早く泳ぐことができる。深さ200メートル以上潜った記録もあるという。食餌は主に夜に行い、エビ、タコ、魚などを食べる。天敵はサメ、特にイタチザメだが、小型のサメは逆に捕まえて食べることもある。 昼間はビーチなどでぐったりと寝ていることが多い。その姿があまりにも無気力にみえるため、病気ではないかと心配する人も多い。病気ではなく、夜の狩りのためにたっぷりと休憩しているだけなので、むやみに近づいたり邪魔をしたりすべきではない。ハワイモンクアザラシに危害を加えることは、法律でも禁止されている。 カイマナ・ビーチにあがってきたハワイモンクアザラシの背中には、個体の行動を調査するためのトランスミッターが装着されていた。もちろん、ハワイモンクアザラシの生態を調べ、絶滅から守るためのものであろうが、背中にあのような大きい装置を付けられてストレスにならないのだろうか。今の時代、もっと小型のICチップのようなものにならないものかと、素人の私は思った。 写真はすべて筆者による撮影 参考文献 Patrick Ching『The Hawaiian Monk Seal』University of Hawaiʻi Press(1994年)