有名な渡り蝶
ハワイの町のあちこちでオレンジ色の美しいモナークチョウがひらひらと飛んでいる姿を見ることができる。タテハチョウ科に属する中型の蝶で、オオカバマダラ、王様蝶とも呼ばれる。英語名はmonarch butterflyといい、北アメリカでは最もよく知られる蝶のひとつである。学名はDanaus plexippus。レペレペ・オ・ヒナ(lepelepe-o-Hina)というハワイ語名があるが、固有種のカメハメハ・バタフライ(Vanessa tameamea)も同じ名で呼ばれる。
アメリカ本土のモナークチョウは、越冬のためにカナダからメキシコまで、3,000キロ以上もの距離を、世代を重ねながら旅する渡り蝶として知られている。しかし、ハワイに生息するモナークチョウは越冬地を探す必要がないため、渡りをすることはめったにないようだ。
ハワイに元からいたわけではなく、1841年から1852年の間に北アメリカからやってきたとされている。自力で太平洋を渡ってきたのか、それとも人間によって持ち込まれたのかは、わかっていないらしい。
特徴
羽を広げた時の大きさは10センチくらいである。羽は黒地にオレンジ色の模様があり、縁の付近は黒色で白の斑点がある。ハワイに生息する他の蝶との見分けはつきやすい。幼虫は黄色、クリーム色、黒色の縞模様で、両端にそれぞれ2本の触角のようなものがある。
分布
ハワイの主要8島ではカホオラヴェ島を除いた全ての島での生息が記録されている。
オアフ島とハワイ島には、オレンジの部分が白い、ホワイトモナーク(white monarch)と呼ばれる個体もみられる。ホワイトモナークは世界各地のモナークチョウで稀に見られるそうだが、どういうわけかハワイでは発生率が高いという。またカウアイ島には、茶色の珍しいモナークチョウも生息しているそうだ。
食草
モナークチョウのハワイでの定着は、幼虫の第一の食草であるトウワタ(Asclepias curassavica)のハワイへの移入と関係があるらしい。トウワタがハワイで定着したのちに、モナークチョウが見られるようになったからだ。
モナークチョウの幼虫は、トウワタのほかにクラウンフラワー(アコン、Calotropis gigantea)などのガガイモ科の植物の葉を食べる。トウワタやクラウンフラワーに含まれる独特の乳液状の物質を吸収した幼虫は、鳥にとっては毒なので、鳥はモナークチョウの幼虫を襲わないのだそうだ。 ただし、オアフ島に外来種として定着しているシリアカヒヨドリ(Pycnonotus cafer)とコウラウン(Pycnonotus jocosus)は、モナークチョウの幼虫を食べることができるという。なお、トウワタも以前はガガイモ科に分類されていたが、現在はキョウチクトウ科に分類されている。成虫は、トウワタを含めた様々な花の蜜を吸う。
クラウンフラワーは花がレイに使われ、ハワイではとても人気がある。民家の庭にもよく植えられているため、ハワイでモナークチョウの幼虫を探すのには最適である。クラウンフラワーの周りにはモナークチョウの成虫の姿もよく見られる。
写真はすべて筆者による撮影
参考文献
- Dean Jamieson, Jim Denny『Hawaiʻi’s Butterflies & Moths』Mutual Publishing(2001年)