崎津 鮠太郎

Entries by 崎津 鮠太郎

ハワイの地名:manu(鳥)がつく地名

ネーネー(ハワイガン)
ハワイの古い地名 鳥たちが古くより人との関わりが深いのは、日本もハワイも同じである。 日本には「鳥」がつく地名や、ツル、タカ、カモ、ウ、ハト、スズメなどの鳥に関連すると考えられる地名が数えきれないほどある。同じようにハワイの地名にも——山、谷、川、湾、滝などの名称も含めて——やはり鳥の名前がたくさん出てくる。 日本の場合、漢字が当て字であったり、縁起のよい字や雅びた字に変えられていたりして、たとえ地名に鳥の名前が入っていても、それが必ずしも鳥に由来するわけではない。鳥にちなんだものに限らず、日本の古い地名の由来の多くは、すでに歴史の彼方に消えてしまったといえるだろう。 一方、太平洋の真ん中に浮かぶハワイ諸島の古い地名は、他言語の影響を受けていないうえ、ハワイ語が音声学的に単純な言語であることもあり、ある程度は由来がわかっている。ハワイで暮らす人々の間では、地名の意味や由来が比較的よく認知されている。 そんなハワイで、鳥に関連する地名にはどういうものがあるだろうか。まずは、ずばり「鳥」がつく地名を探してみる。鳥はハワイ語で「manu」という。 アーフイマヌ ʻĀhuimanu オアフ島カーネオヘ(Kāneʻohe)にある住宅地の名前。近くには平等院がある。直訳すると「鳥群」。近くにその名も「鳥島」のモクマヌ(Mokumanu)という小島があることからもわかるように、今日でもカツオドリなどの海鳥が多く生息する地域である。ちなみに、この町の通りの多くは、フイ・イオ(Hui ʻIo)、フイ・イヴァ(Hui ʻIwa)、フイ・ウーリリ(Hui ʻŪlili)、フイ・アキキキ(Hui ʻAkikiki)、フイ・アーケパ(Hui ʻĀkepa)のように、Hui(群れ)+鳥の名前が付けられている。 アーリアマヌ Āliamanu ホノルル市の西側にあるソルトレイク界隈の別名で、もともとは近くにあるクレーター(Āliamanu Crater)の名前。アーリア(ālia)には「塩で覆われた場所」や「塩辛い」などの意味がある。火山の女神ペレ(Pele)が、家族とともにこの地で暮らしていたことがあると伝えられている。伝承では、彼女らがこの地を離れるときに、ペレの妹のヒイアカ(Hiʻiaka)が飼っていた鳥が逃げ出し、他の鳥たちが集まってきたという。 カホールアマヌ Kahōluamanu カウアイ島ワイメア・バレーの最も高い崖の名前。「カ(ka)」は冠詞で、英語では通常「the」と訳される。「ホールア(hōlua)」とは、ハワイの伝統的なソリを使ったソリ遊びのこと。名前の由来が気になる。 ハレマヌ Halemanu カウアイ島のハレマヌ・ストリーム(Halemanu Stream)という川の名前。「ハレ(hale)」は家という意味。日本風の名前にするなら「鳥ノ巣川」といったところか。いかにも鳥たちが元気にさえずる川辺の風景を彷彿する。しかし、私は実際にこの川を何度かトレッキングで渡ったことがあるが、鳥の気配すら感じたことがない。カウアイ島の森の野鳥は、特に2010年頃から急速に減少しているように思うが、昔はこの渓流一帯にもエレパイオやハワイミツスイたちがたくさんすんでいたのだろう。カウアイ島の森に再び鳥たちが戻ってくる日は来るのだろうか。 マヌアヒ Manuahi ハワイ島コナのカウープーレフ(Kaʻūpūlehu)の古い地名や、カウアイ島の谷と川の名前、さらにモロカイ島北部の尾根の名前にもある。「アヒ(ahi)」は火という意味。ハワイの火の鳥伝説といえば、人間に火をもたらしたといわれるアラエ・ウラ(バン)があるが、なにか関係あるのだろうか。いつかそれぞれの場所に行って地勢や鳥相を見てみたいものである。 その他の「鳥」がつく地名 カフルオマヌ(Kahuluomanu、直訳「鳥の羽根」)、オアフ島。 カライアカマヌ(Kalaʻiakamanu、直訳「鳥がもたらした平和」)、モロカイ島。 ハアクラマヌ(Haʻakulamanu、直訳「鳥が集まる場所のような」)、ハワイ島。 カマヌ(Kamanu、山の名前。直訳「鳥」)、カウアイ島。 カマヌワイ(Kamanuwai、直訳「水鳥」)、オアフ島。 カヌクオカマヌ(Kanukuokamanu、直訳「鳥のくちばし」)、ハワイ島。 ケアーカマヌ(Keākamanu、丘の名前。直訳「鳥の雑音」)、マウイ島。 ルアマヌ(Luamanu、クレーターの名前。直訳「鳥穴」)、ハワイ島。 マヌホノホノ(Manuhonohono、丘の名前。直訳「臭い鳥」)、カウアイ島。 プウカマヌ(Puʻukamanu、丘の名前。直訳「鳥丘」)、カウアイ島。 プウマヌ(Puʻumanu、丘の名前。直訳「鳥丘」)、カウアイ島、ラーナイ島、ハワイ島。 ワイマヌ(Waimanu、直訳「鳥水」)、ハワイ島、カウアイ島、モロカイ島(滝の名前)。 以上、「鳥」がつく地名を探してみた。 カウアイ島、ラーナイ島、ハワイ島にそれぞれあるプウマヌ(鳥丘)には現在どんな鳥がすんでいるのか、いつの日かそれぞれ訪ねてみたいものだ。カライアカマヌ(鳥がもたらした平和)や、ケアーカマヌ(鳥の雑音)などは、なにかの伝承にもとづいた名前なのだろうか。由来が気になる。 ネーネー、アラエ、イヴァなどの鳥名がつく地名は、次の記事で紹介したい。 写真は筆者による撮影 参考文献 Mary Kawena Pukui, Samuel H. Elbert『Hawaiian Dictionary (Revised and enlarged edition)』University of Hawaiʻi Press(1986年)Mary Kawena Pukui, Samuel H. Elbert, Esther T. Mookini『Place Names of Hawaii (Revised and expanded edition)』University of Hawaiʻi Press(1974年)

ラハイナヌーン:太陽が真上にくる日(2023年日程あり)

北回帰線よりも南に位置するハワイ 地球上で南北の回帰線の間にある熱帯地域のみ、太陽が天頂を通過する。冬至のときに太陽が真上にくる地点をつなげたのが南回帰線、夏至のときに太陽が真上にくる地点をつなげたのが北回帰線だ。 ハワイの主要8島は北回帰線よりも南に位置するので、太陽が真上にくる日が年に2回ある。日本やアメリカ合衆国本土では見られないない現象だ。この現象は、ハワイではラハイナ・ヌーン(Lahaina Noon)と呼ばれている。 春と夏のラハイナヌーン 太陽が真上にくる地点は、冬至を境に南回帰線から徐々に北上するわけだが、ハワイでは5月後半にその年最初のラハイナヌーンがくる。太陽が真上にくる地点はハワイを過ぎてさらに北上し、夏至の日(6月22日ごろ)にハワイよりやや北にある北回帰線に到達すると、今度は南下を始め、ハワイでは7月半ば頃に2度目のラハイナヌーンを迎えることになる。 5月の1回目のラハイナヌーンは「Spring Lahaina Noon(春のラハイナヌーン)」と呼ばれ、7月の2回目のラハイナヌーンは「Summer Lahaina Noon(夏のラハイナヌーン)」と呼ばれる。 ラハイナヌーンの日は、ハワイ州内でも緯度によって異なる。太陽が真上にくる地点が北上していく春のラハイナヌーンは、2023年のホノルルでは5月26日だが、例えばホノルルより南にあるヒロ(ハワイ島)ではそれより8日早い5月18日であり、ホノルルより北にあるリーフエ(カウアイ島)では、5月31日にラハイナヌーンを迎える。逆に太陽が真上にくる地点が南下していく夏のラハイナヌーンは、この3都市でいうとリーフエ(7月11日)、ホノルル(7月15日)、ヒロ(7月24日)の順でやってくることになる。 2023年春のラハイナヌーン ヒロ(ハワイ島):5月18日(木)午後12時16分 カフルイ(マウイ島):5月24日(水)午後12時22分 ホノルル(オアフ島):5月26・27日(金・土)午後12時28分 リーフエ(カウアイ島):5月31日(水)午後12時35分 2023年夏のラハイナヌーン リーフエ(カウアイ島):7月11日(火)午後12時43分 ホノルル(オアフ島):7月15・16日(土・日)午後12時37分 カフルイ(マウイ島):7月18日(火)午後12時32分 ヒロ(ハワイ島):7月24日(月)午後12時26分 参照:https://www.lovebigisland.com/hawaii-blog/lahaina-noon-when-and-where/ 灼熱の太陽が最高点に達する昼 ラハイナヌーンという名前は、1990年にホノルルのビショップ博物館によって行われたコンテストで選ばれた名前である。ハワイ語で「la」(正確には「lā」)は太陽のことで、「haina」(正確には「hainā」)には「過酷な」や「残酷な」という意味がある。「noon」は正午や最高点という意味の英語で、つまりラハイナヌーンとは「灼熱の太陽が最高点に達する昼」という意味である。 影が体の中に宿る時間 自然の観察に長けていたことで知られる古代ハワイ人が、年に二度起こるこの現象を知っていたのかどうか調べてみたが、わからなかった。1990年にわざわざラハイナヌーンを新語として造ったということは、この現象をさすハワイ語はなかったかと思われる。 ただし、毎日の正午のことを表すフレーズとして「カウカラーイカロロ、アホイケアカイケキノ(kau ka lā i ka lolo, a hoʻi ke aka i ke kino)」というのがある。まるでなにかの呪文のようにも聞こえるが、「太陽が頭の上にあり、影が体の中に宿る時間」という意味になる。ハワイ人は、太陽が最も高い位置に来る正午を、マナが宿るスピリチュアルな時間だと考えていたようである。 マウイ島のラハイナ 現在は観光地として人気があるラハイナ ラハイナといえば、1820年から1845年までハワイの首都だった、マウイ島のラハイナ(Lahaina)という町を思い浮かべる人も多いだろう。この地名は古くは「Lāhainā(ラーハイナー)」と発音されていたそうで、直訳すると「残酷な太陽」となる。干ばつが地名の由来であると考えられている。 ラハイナヌーンの時間に、平らな地面で例えばペットボトルを立ててみると、太陽が真上にあるので当然影がない。5月末や7月半ばにハワイにいる方は、この年に2度の珍しい現象を体験できる。 2016年5月26日のラハイナヌーン時に撮影。太陽が真上にあるため、コーンの影がない 写真はすべて筆者による撮影

石川酒造(多満自慢)酒蔵見学

石川酒造(多満自慢)売店「酒世羅」
タイムリーな縁を感じて 東京に数日滞在することになり、半日予定が空いていたので、見学可能な都内の酒蔵を検索したところ、福生市で「多満自慢」を造る石川酒造が見つかった。 駅から近くて行きやすそうだ。そしてなにより「多満自慢」といえば、私がデザインディレクターとしてブランディングを担当させていただいているロサンゼルスの日本酒販売会社「Tippsy」が展開している月額制サブスクリプションボックスの2019年4月版に、奥の松、水芭蕉とともに選ばれている銘柄ではないか。これは何かの縁だと思い、すぐに石川酒造に見学の予約を入れた。 新宿駅から拝島駅へ 新宿駅で、午前8時19分発の「ホリデー快速おくたま・あきがわ」に乗車した。土、日、祝日に運行される快速列車だ。車内は空いていたが、奥多摩への登山客と思われる人がちらほら見られた。9時4分、拝島駅で下車した。 多摩川を散歩 蔵の近くを流れる多摩川 予約した酒蔵見学は10時30分からだったので、時間つぶしに蔵の近くを流れる多摩川に歩いて行ってみた。河川敷は桜並木になっていて、桜が満開だったこの日は桜祭りが行われていた。うららかな快晴の朝に桜を楽しんだあと、酒蔵に向かった。 多摩川河川敷の桜並木 酒蔵へ 静かな住宅地に突如長い塀と白壁の建物が現れ、すぐにここが石川酒造だとわかった。「多満自慢」と書かれた大きな扁額が掛かる正門をくぐると、すぐ正面に本蔵があり、その左は売店「酒世羅」がある。敷地内は静かで人はあまりいない。 敷地の外から見た酒蔵 予約がいらない「お気軽散策コース」という、ガイドがつかない無料のコースもあったが、しっかり見学したい我々は、「多満自慢(日本酒)見学コース」の予約をしておいた。見学の予約したうまを売店で伝え、チェックインと支払い(1人700円)をすませた。 他に「クラフトビール飲み比べコース」(1人1000円)や、「酒蔵の幸御前付き見学コース」(1人1800円)などのコースもある。英語でのガイドも可能なので、興味がある方は石川酒造のウェブサイトをチェックしていただきたい。 ちなみに、我々の見学の第一希望は日曜日だったが、電話で問い合わせてみるとすでに定員15名分の予約が入っているとのことで、前日の土曜日にした。酒蔵見学の人気のほどがうかがえる。 この日は、ハワイからやってきた我々2名の他に、日本酒にとても熱心な女性2名のグループと、他の酒蔵も見学したことがあるという男性3名のグループの合計7名が見学に参加した。 石川酒造について 石川酒造入口 10時30分、言われた通り売店前に集まると、ガイド担当の石川さんが、まず石川酒造についてと今日の見学コースの概要を説明してくださった。ガイドの石川さんは、石川酒造の血筋の方かと勝手に思っていたが、後で伺うとそうではなかった。この辺りは石川姓がとても多いそうである。 石川さんによると、石川酒造は幕末の1863年に創業された。創業当時の蔵は、多摩川の対岸、現在のあきる野市にあり、「八重桜(やえさくら)」という銘柄の清酒を造っていたという。その後、1880年に現在の場所に移り、1933年には現在の銘柄である「多満自慢」が誕生した。 また1887年から約2年間はビールの醸造も行われ、「日本麦酒」というラガービールが販売されていた。その後、長い間ビールの醸造は行われていなかったが、1998年、111年ぶりに復活し、現在では「多摩の恵」と「Tokyo Blues」の銘柄で個性豊かなクラフトビールを醸造している。 現在「多満自慢」は、若い杜氏と4.5人の蔵人というごく少人数で丁寧に造られている。4.5人というのはどういう意味だろう。一人は半人前の見習いということだろうか。さらっと言われたので尋ねるのを忘れてしまった。 石川酒造の酒は、気温が低い秋から初春にのみ仕込みを行う昔ながらの「寒造り」によって造られているが、蔵人たちは季節労働者ではなく、社員として通年勤務している。酒造りの季節以外は社内のさまざまな業務に携わっているそうだ。私たちが訪ねたこの日は、敷地に鯉のぼりが設置されている最中で、この作業を蔵人の方がしておられた。 本蔵から見学開始 1880年建造の本蔵 見学は、幅約23m、高さ約13m、奥行き約31mの本蔵の中から始まった。石川酒造が現在の場所で酒造りを始めた1880年に建てられた蔵で、石川酒造の清酒はすべてこの本蔵で造られている。 ひんやりとした本蔵に入ると、タンクがずらりと並んでいる。ここに人数分の猪口に酒が用意されていて、いきなり最初のテイスティング。酒は多満自慢 純米無濾過。使用米はコシヒカリ、精米歩合は70%。穏やかな味わいの純米酒だった。燗にするとさらにおいしくなるそうだ。純米無濾過を飲みながら、石川さんが黒板を使って酒造りの基本的な工程、酒米と食用米の違い、酒造りによく使われる用語などを説明してくれた。 本蔵の内部 国登録有形文化財の建物群 敷地内の様子 本蔵をあとにして、敷地内の施設や植物の解説を受けながら、ゆっくりと歩いた。石川酒造には本蔵の他に、1775年以前に建てられたと伝わる長屋門、1863年に建てられた文庫蔵、1898年に建てられた雑蔵など、6つの建物が国の有形文化財に登録されていて、どの建物もとても見応えがある。 なお、雑蔵の2階は資料館になっており、石川酒造の史料が多数展示されている。入場は無料。 資料館 資料館に展示してある「多満自慢」や「八重桜」の古いラベル 仕込み水 仕込み水の性質が酒の風味を決定する 「多満自慢」は、敷地の地下150mより汲み上げる天然地下水を使用して造られる。水は中硬水で、この地下水の性質上、「多満自慢」は優しい口当たりの酒が多い。辛口の酒を欲しがる地元の「多満自慢」ファンもいるらしいが、この水から辛口の酒を作るのはなかなか難しいのだそうだ。 テイスティングルーム 歴史的建物、水、御神木である樹齢700年のケヤキなどを見学したあと、ビール工房でビール造りについて短い説明を受け、雑蔵の一階にあるテイスティングルームに移動した。 用意されていた席に座り、大吟醸、純米大吟醸、純米生原酒あらばしり、純米生原酒かめぐち、そして最後に梅酒の順にテイスティングした。この頃には参加者たちも打ち解けあって、それぞれ意見や感想を言いながら楽しいテイスティングになった。 お土産として「多満自慢」の銘が入った猪口をいただき、これで約45分の見学は終了。何度でもテイスティングしてよかったため結構な量を飲んでしまった。朝からほろ酔い状態になった私は、いい気分でテイスティングルームをあとにした。 この日テイスティングした6種類の酒 併設レストラン「福生のビール小屋」 石川酒造の敷地内には、「福生のビール小屋」というイタリア料理店もある。もちろん多満自慢、多摩の恵、Tokyo Bluesが揃っていて、料理に使う水は、仕込み水と同じ地下150mから汲み上げた天然地下水が使われているそうだ。 雰囲気の良いテラス席もあり、店の入り口にあったメニューはどれも美味しそうだったのでここで昼食にしようと思ったが、あいにく満席で入ることができなかった。見学中、昼前から敷地内を歩く人が多くなったなと思っていたが、皆レストランを目指していたのだ。ここでの昼食は諦め、石川酒造をあとにした。 写真はすべて筆者による撮影

ハワイでハイキング:オアフ島最高峰カアラ登山

カアラ山頂からみたノースショア方面
目立たない最高峰 私が住んでいるオアフ島で一番高い山は、島の西側のワイアナエ山脈にある、カアラ(Kaʻala)という山である。高さは1,225メートル。山容は、頂が平らになった台形をしていて、あまり目立たない。ホノルルからもよく見えるが、あの山がオアフ島の最高峰であることを知っている人は少ない。 カアラ登山 カアラ山には、過去に二度登ったことがある。山頂まで登る道はいくつかあるようだが、私は二度とも島のリーワード側から登った。入り口は、ワイアナエという町からしばらく山側にはいったところにある。 登山口からしばらくは塗装されたゆるやかな登り道だが、やがて塗装道路が終わり尾根道になる。尾根道がおわると、あとは急な斜面をひたすら登ってゆく。特に景色も見られず、単調な登山だ。 我慢してしばらく登るとコア、オーヒア、マイレなどの在来植物があわられはじめ、やがてカマイレウヌ(Kamaileʻunu)という尾根の頂上にでる。尾根の上から見下ろす、ワイアナエ・バレーの景色が素晴らしい。 ここからさらに登りは続く。ちょっと恐ろしいくらいの巨大な岩をよじ上る場所もある。設置してある補助用のロープを使いながら登る。 斜面を登りきると、道は急に平坦になる。この山を遠くから眺めたときに平らに見える頂上部分だ。この平坦な場所は湿原(ボグ)になっていて、カアラ自然保護地区(Kaʻala Natural Area Reserve)に指定されている。ここからは、ハイカーが自然環境を壊さずかつ安全に歩けるように敷かれた板の歩道をゆく。ピロやオーラパなど、ハワイ原産の植物がたくさんみられた。 ピロ(カアラ山頂) オアフ島では生息数がさほど多くないアパパネ(アカハワイミツスイ)が、木々の間を飛んでゆく。さえずりも聞こえてくる。まるでカウアイ島のコーケエ州立公園にでもやってきたかのような気分になった。 湿原が終わると板の歩道もなくなり、少し進むと「End of Hiking Trail」という看板がある。近くに島の北側を見渡せる景色の良い場所があるのでそこで弁当を食べた。 アパパネ(アカハワイミツスイ) 帰りは、来た道をひたすら下っていく。往復距離13キロ、高低差1,000メートル、往復8時間のハイキングだ。オアフ島のハイキングコースでは中~上級者向けのコースに入るだろう。しばらく行っていないので近いうちに3度目のカアラ登山を試みたいと思っている。 カアラに住む女神カイオナ カアラ山には、カイオナという慈悲深い女神が住んでいると云われている。山で道に迷った人がいると、カイオナの使いであるイヴァ(オオグンカンドリ)が道案内をして助けてくれるという。私は2回とも道に迷わなかったからなのか、イヴァの姿は見られなかった。 写真はすべて筆者による撮影 ※この記事は、筆者の主観に基づいたハイキング日記であり、読者の皆様を安全なハイキングへと導くトレイルガイドではありません。この記事を参考にして実際にトレイルに行かれる場合は、必ず「ハワイでハイキング:はじめに」をお読みください。

ハワイでハイキング:イリアウ・ネイチャー・ループ(カウアイ島)

イリアウとワイメア渓谷
初夏の花 5月から7月にかけて、カウアイ島の山地ではイリアウ(iliau)という珍しい植物が花の季節を迎える。カウアイ島西部のワイメア渓谷州立公園(Waimea Canyon State Park)には、イリアウ・ネイチャー・ループ(Iliau Nature Loop)というファミリー向けのトレイルがあり、このイリアウを簡単に見つけることができる。また、トレイルからはワイメア渓谷の絶景を望むこともできる。 イリアウの花 イリアウは、キク科の低木で、カウアイ島のみに分布する希少な固有種である。マウイ島とハワイ島の高山地帯に自生するギンケンソウ(シルバーソード)の近縁種である。イリアウやギンケンソウについてもっと詳しく知りたい方は、私が制作している姉妹サイト『アヌヘア:アヌヘア:ハワイの花・植物・野鳥図鑑』のイリアウやギンケンソウをご覧いただきたい。 関連記事 イリアウ アヌヘア:ハワイの花・植物・野鳥図鑑 トレイル概要 名前Iliau Nature Loop場所カウアイ島ワイメア渓谷(Waimea Canyon)。リーフエ空港から約54km駐車場路上駐車トイレなし。最寄りのトイレは、State Hwy. 550をさらに約3km(車で約5分)北上したワイメア渓谷展望台(Waimea Canyon Lookout)高低差12m以下距離一周約400m時間30分~1時間(ただ歩くだけなら10分程度で一周できる) トレイル入り口までの行き方 地図 車で行く場合(リーフエ空港から) 空港を出てAhukini Rd.を西に約2km(1.3マイル)進み、HI-56 S(Kuhio Hwy.)の丁字交差点を左折。HI-56 SはすぐにHI-50 W(Kaumualii Hwy.)になる。HI-50 Wを西へ約37km(23マイル)進む。ワイメア(Waimea)の町に入る。右手にキャプテン・ジェームス・クックの銅像、Big Save Market(スーパーマーケット)を過ぎる。Waimea Canyon Dr.(State Hwy. 550)との丁字交差点を右折(信号なし)。Waimea Canyon Dr.を約13km(8.3マイル)進む。「MILE 8」の標識を過ぎたら、やがて右側に緊急用の電話があり、そのすぐそばにトレイルの入り口がある(「MILE 9」の標識まで行くと行き過ぎ)。道路左手に車数台が縦に駐車できるので、ここに路上駐車する。 ハイキング イリアウ・ネイチャー・ループの入り口 車をとめて、道路から見えるベンチがトレイルの入り口。ベンチに向かってわずかに登ったあと、すぐに下り道になる。最初のセクションは、イリアウ・ネイチャー・ループの一部であるとともに、ククイ・トレイル(Kukui Trail)も兼ねている。ククイ・トレイルは、渓谷の底まで降りる長いトレイルである。 イリアウ・ネイチャー・ループ トレイルに入るとすぐに、ひょろひょろとした細長い幹の先に剣のような葉をたくさんつけた不思議な形の植物が群生している。これがイリアウである。5~7月ならクリーム色の花をたくさんつけているイリアウも多くみられるだろう。 イリアウ(開花時) やがて丁字路がある。直進するとククイ・トレイル、左折するとイリアウ・ネイチャー・ループである。ここを左折。すぐに右手の景色がひらけ、ワイメア渓谷を見下ろせる崖の上にでる。景色は素晴らしいが、落下防止の柵などは設置されていないので注意が必要。 ワイメア渓谷 崖からは、渓谷の上空を優雅に飛ぶシラオネッタイチョウ(ハワイ語名はコアエ・ケア)を見ることができるだろう。私が2017年5月に訪れたときには、カウアイ・アマキヒの鳴き声も聞こえたが、姿は確認できなかった。 トレイルでは、イリアウの他にもオーヒア・レフア、アアリイ、プーキアヴェなど、カウアイ島の山に自生する様々な植物を、名前や学名が記された標識付きで観察することができる。 オーヒア・レフア(左)とイリアウ(右) トレイルは、一周して再びスタート地点に戻って来るループになっているので、来た道を戻る必要はない。ただ歩くだけなら10分程度で一周できる。カウアイ島で軽くハイキングをしてみたい人にはぴったりのトレイルだ。ただし、ハワイの多くのトレイル同様、トイレや売店は近くにないので、注意が必要である。 写真はすべて筆者による撮影 ※この記事は、筆者の主観に基づいたハイキング日記であり、読者の皆様を安全なハイキングへと導くトレイルガイドではありません。この記事を参考にして実際にトレイルに行かれる場合は、必ず「ハワイでハイキング:はじめに」をお読みください。

マヌオクー・フェスティバル

紙で作られたマヌオクー(シロアジサシ)
天空の妖精を愛でるお祭り 今年で2回目となる『マヌオクー・フェスティバル(Manu-o-Kū Festival)』が、2017年5月20日土曜日の午前11時から午後3時まで、イオラニ宮殿の敷地内で開催された。去年の第1回イベントには予定が合わず行けなかったが、今年は行くことができた。 このイベントの主役であるマヌオクーとは、ホノルル市内に生息するシロアジサシのハワイ語名で、私が特に好きな鳥のひとつである。真っ白な海鳥で、2007年より『ホノルル市の鳥』に指定されている。 英語ではWhite Tern(白いアジサシ)と呼ばれるほか、「妖精のようなアジサシ」という意味のFairy Ternという名前もある。顔や仕草がとても愛らしく、飛翔する姿は軽やかかつ優雅で、まさに妖精の名にふさわしい。 マヌオクーのペア 不思議なことに、マヌオクーは、ハワイの主要な島々ではオアフ島の都市部にのみ生息する。繁殖地は、わずかな例外を除いては、西はアロハ・タワーから東はニウ・バレーあたりまでの狭い地域に限られている。しかもどういうわけか、ダウンタウン、ワイキキ、アラモアナなどの、人の活動で特に賑やかな街に集中している。 関連記事 マヌオクー(シロアジサシ) アヌヘア:ハワイの花・植物・野鳥図鑑 マヌオクー・フェスティバル そんな愛すべきマヌオクーについてより多くの人々、特に子供たちに知ってもらうために、2016年5月14日に第1回『マヌオクー・フェスティバル』が開かれ、今年は2回目の開催となった。開催しているのはConservation Council for Hawaiʻiという非営利団体で、他に多くの団体、機関、企業がパートナーやスポンサーとして参加している。入場は無料。 会場であるイオラニ宮殿の敷地内には、大きなテントがたてられ、その中で子供向けのゲームや工作、デジタル写真展、マヌオクーをはじめとしたハワイの野鳥について学べるブースなどが、所狭しと並んでいた。会場は家族連れで賑わっていて、子供たちが熱心に紙工作でマヌオクーを作ったり、ゲームを楽しんだりしていた。 マヌオクーのお面 海鳥について学習できるブース デジタル写真展では、複数の写真家たちによるマヌオクーの写真のスライドショーが、モニターで展示されていた。私も、この写真展の担当のかたとご縁があり、僭越ながら10枚ほどの写真を提出させていただいた。 私も参加させていただいたデジタル写真展 望遠鏡でマヌオクーを実際に観察 テントの真横に立っている大きなククイの木では、奇しくもマヌオクーが子育てをしている最中であった。木の下には、そのヒナにスポットをあてた望遠鏡が2台設置されていて、皆とても興味深そうに望遠鏡を覗いていた。また空を見上げると、数羽のマヌオクーが飛び回っていた。 イオラニ宮殿とその周辺のダウンタウンには、マヌオクーの繁殖地がたくさんある。当フェスティバルのイベントの一つとして、これらの繁殖地を歩いて回るツアーも行われたようである。 営巣中のマヌオクーを観察できる望遠鏡 マヌオクーが800万ドルの工事を延期に ダウンタウンのマヌオクーといえば、今年3月、ハワイ州立美術館のバルコニーでマヌオクーが抱卵していることがニュースになった。なぜなら、美術館がある建物では予算800万ドルをかけた大規模なメンテナンス工事が予定されていたが、このマヌオクーのヒナが巣立つまで、工事が延期になったからである。 マヌオクーの親子 マヌオクーに危害を加えたり、卵やヒナを動かしたりして子育ての邪魔をすることは、州と国の法律で禁止されている。 メンテナンス業者にとってはせっかくの仕事が延期になってしまって歯がゆいことかもしれないが、私は、このように自然や野生動物を守ることに重きをおくハワイが、あらためて好きになった。 マヌオクーの家族 写真はすべて筆者による撮影

ハワイでハイキング:ライアン樹木園のアイフアラマ滝(オアフ島)

チャイニーズグラウンドオーキッド
樹木園内をハイキング ホノルル市内に数多くある森林トレイルで、観光客やファミリーに1番人気のトレイルは、おそらくマーノア・バレー(Mānoa Valley)の奥にあるマーノア滝(Mānoa Falls)へ行くコースだろう。こちらのコースもいずれ紹介したいが、今回は、その隣にあるライアン樹木園(Lyon Arboretum)内のアイフアラマ滝(ʻAihualama Falls)までハイキングに出かけた。 ライアン樹木園(Lyon Arboretum)は、オアフ島マーノア・バレーの奥部に位置する樹木園。194エーカーという広大な敷地に、5,000種以上の熱帯植物が植えられている。 ハワイ大学によって管理されており、ハワイのユニークな植物相の研究や保護が行われている。また植物だけでなく、鳥、昆虫、川辺の生態系、気象、土壌、水文学など、様々な分野での研究の場、教育の場となっている。一般市民向けのセミナーやヨガなどのイベントも頻繁に行われている。 開園日と時間は、2017年5月現在、以下の通り。 月曜~金曜:午前8時~午後4時土曜:午前9時~午後3時休園日:日曜、州・国の祝日 トレイル概要 名前Lyon Arboretum場所オアフ島ホノルル(Honolulu)。McCully Shopping Centerから約7km駐車場ありトイレあり高低差約70m距離往復約2km時間往復2~3時間(トレイル入口まで行く時間は除く。筆者は頻繁に長い時間立ち止まって写真を撮ることが多いので、あくまでも目安) トレイル入口までの行き方 地図 車で行く場合(McCully Shopping Centerから) Kapiʻolani Blvd.を東(ダイヤモンドヘッド方面)に進む。University Ave.を左折。S King St.との交差点を直進。H1フリーウェイの下を通りすぎる。ハワイ大学を右手に通りすぎる。Oʻahu Ave.を道なりに右折(曲がり角はゆるやかで信号機はない)。E Mānoa Rd.を直進(信号機あり)。信号機がない5叉路で、Mānoa Rd.を右折。マーノア・フォールズ・トレイル(Mānoa Falls Trail)の駐車場を右手に通り過ぎる。鬱蒼とした森のなかを、Mānoa Rd.の終点まで進む。マーノア・フォールズ・トレイルの入り口手前を左折。Mānoa Rd.の終点に、ライアン樹木園(Lyon Arboretum)の駐車場がある。 バスで行く場合(アラモアナセンターから) 山側(Kona St.)のバス停からマーノア方面行きの5番バスに乗り、Mānoa Rd. + Kumuone St.で下車(乗車時間約30分)。バス停からライアン樹木園まで徒歩約20分。 まずは管理事務所へ 駐車場から奥に進むと、樹木園の管理事務所がある。ここで入園者全員の名前を記入する。入園料は定められていないが、寄付箱があり、一人5ドルの寄付が求められている。管理事務所では、樹木園やトレイルの地図が掲載されたパンフレットや、野鳥のチェックリストなどをもらうことができる。なお、敷地内にレストランやカフェはないが、ギフトショップで飲み物やスナックは販売されている。 トレイルのスタート地点は、駐車場の入り口近く(管理事務所の反対側)にある。敷地内はよく整備されており、標識も点在しているので、道に迷うことはあまりないだろう。 また、トレイルから外れたエリアにも様々な植物が植えてあり、種名、科名、学名などが記されたプレートがそれぞれに設置されているので、植物見学に適している。 コキオ(kokiʻo)と呼ばれる、ハワイ固有のハイビスカス 例えば、Native Hawaiian Plant Garden(ハワイ在来植物の庭)では、コア、オーヒア・レフア、ハイビスカスなどのハワイ在来の植物が植えられており、Hawaiian Ethnobotanical Garden(ハワイの民族植物学の庭)では、オヘ(南太平洋原産の竹)、ウアラ(サツマイモ)、キー(ティ)など、古代ハワイ人が衣食住のための道具や材料として利用した植物が植えられている。 また、Great Lawnと呼ばれる芝生広場もあり、ここでピクニックを楽しむ地元の家族連れも多い。私が出かけた日は、男性がフライフィッシングのキャスティング練習をしていた。 メイントレイルとサイドトレイル メイントレイル 滝に向かうメイントレイル(本道)は、駐車場から北に伸びている。ほかにも、さまざまなサイドトレイルが本道から分かれている。サイドトレイルからは、Fern Valley(シダの谷)、Bromeliad Garden(アナナスの庭)、Inspiration Point(インスピレーション・ポイント)、Hawaiian Section(ハワイアン・セクション)などのエリアに行くことができる。 インスピレーション・ポイント アイフアラマ滝 メイントレイルの終点は、アイフアラマ滝(ʻAihualama Falls)という小さな滝である。滝がある川はアイフアラマ川(ʻAihualama Stream)で、ハワイ大学東側やアラワイのゴルフコース西側を通ってアラワイ運河に注ぐマーノア川(Mānoa Stream)の支流である。 アイフアラマ滝 滝の近くでは、チャイニーズグラウンドオーキッド (Chinese ground orchid)が綺麗な花をつけていた(ページトップの写真)。中国やオーストラリアなどが原産のランで、ハワイでは外来種としてカウアイ島、オアフ島、ラーナイ島、ハワイ島で自生している。 滝を楽しんだあと、来た道を戻った。 写真はすべて筆者による撮影 ※この記事は、筆者の主観に基づいたハイキング日記であり、読者の皆様を安全なハイキングへと導くトレイルガイドではありません。この記事を参考にして実際にトレイルに行かれる場合は、必ず「ハワイでハイキング:はじめに」をお読みください。